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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)96号 決定 1960年7月05日

抗告人 堤幸三郎

主文

原決定を取消す。

本件を神戸地方裁判所尼崎支部に差戻す。

理由

抗告人の抗告の趣旨及理由は別紙記載の通りである

按ずるに、無効な抵当権の実行に基く不動産任意競売手続において競落許可決定が確定しても、競売不動産の所有権者は、これにより何らその所有権を失ういわれはないから、たとえ該競落許可決定により所有権を取得したとして不動産引渡命令を得た競落人に対しても、その権利主張を阻止するため一般民事訴訟の方法により所有権の確認並に不動産引渡命令の停止等を訴求しうべく、これが請求保全のための仮処分を求めうることもまた当然で、これと該競売手続自体の無効を主張しながら、そのため強制執行法上特に定められた不服申立方法によることなく、これを本案として引渡命令停止の仮処分を求めるが如き不適法な場合とを区別しなければならない。然るに原決定が本件仮処分申請の本質を明にすることなく特別な手続によつて仮の地位を定めることを認めている場合には一般の仮処分の必要は阻却されると解し一般の仮処分を求めることはできないとして本件申請を却下したのはいささか理解し難いものがあり抗告理由はその理由あるに帰する。

よつて原決定を取消し本件を原審に差戻すべきものとし主文の通り決定す。

(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

神戸地方裁判所尼崎支部昭和三四年(ケ)第七一号不動産競売事件につき同庁が昭和三五年一月一一日執行吏小林敏雄に別紙目録不動産に対する抗告人の占有を解き、これを相手方に引渡すべきことを命じた不動産引渡命令の執行は仮に之を停止する。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定の理由は次の通りである。

「本件は、任意競売による不動産引渡命令の執行を、抵当権の無効により競落人が所有権を取得せず、申請人が依然所有者であるとして競売無効所有権確認事件の判決確定に至るまで、仮に停止するとの仮処分命令を求めるものである。

然しながら、法が特別の手続によつて仮の地位を定めることを認めている場合には、一般の仮処分の必要は阻却されると解すべきである。右不動産引渡命令に対しては、不服申立方法が認められ、その停止の仮の処分に関する規定があるのだから、これによつて、執行停止命令を得べきで、一般の仮処分を求めることはできない。

よつて、本件仮処分申請を理由のないものとして、却下することとし、主文のとおり決定する。」

二、抗告の理由

他に仮の地位を定める方法のある場合には、一般の仮処分は許されないというのは、原決定の独断であり、任意競売の手続の停止につき仮処分命令が発せられる例は枚挙に遑がないほどである。不動産引渡命令に対しては、その執行停止の仮の処分に関する特別の規定があるというがどこにどんな規定があるか不明であり少くとも問題の多いところである。かゝる法律問題に関し、裁判の理由を付するに当つては、判例又は条文を指示し当事者をしてそのよるべきところを傍論として指示し、一面裁判所の意とするところを明示するのが大審院以来の判例の態度であるが、原決定はこれらの点に意を用いることがないので、充分了解できないのであるが、最高裁判所(昭和二六年四月三日)判決が「執行を停止できる場合は、強制執行編に列挙規定があり、一般に仮処分の方法により強制執行を停止することは許されない」と言つているという点によつておるのでないかと思われる。ところが右判決は確定判決に基く強制執行に関するものであり、民訴の諸規定特に強制執行編がそのまま適用されることは言う迄もないのであつて民訴第五四五条又は第五四九条の場合には同法第五四七条により仮処分の方法の規定があり、かかる場合につき一般の仮処分によるべきでないとの意味であるが、本件は債務名義なき任意競売によるもので、右判決とは場合を異にするのではないか、任意競売については、その執行停止につき、明確な規定なく、民訴強制執行編を準用するにしても、任意競売の性質に反しないものに限るのであり、抵当権無効の場合にしても民訴五四五条準用説、同第五四九条準用説、或は第五四四条準用説等あり、かかる差異の生ずるのは、一方が確定判決等債務名義があるのに対し、他はこれがないことからきていると思われる。即ち抵当不動産の所有者は抵当権の無効を理由として、その競売手続中民訴法の類似規定の準備により、その執行の停止を求め得るか否か、又それを求めたか否かに関係なく、自己の所有権を主張して一般の仮の処分により不動産引渡命令の執行の停止を求め得るものと解する。原決定は「不動産引渡命令に対しては不服申立方法が認められ、その執行停止の仮の処分に関する規定がある」と宣言しているが、何の事か理解し難い。要するに原決定は、抗告人の耐い難い苦痛、回復し難い損害につき些も思を致さず、たやすく抗告人の仮処分申請を却下したのは法律の解釈を誤つた違法がある。よつて本抗告に及ぶ次第であります。

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